悟空はハテナ顔になった。
「??? …よくわかんねー。けど、てんかいってトコで、何年か前の今日、俺たちは生まれたのかな?」
「さあ? ただ、五百年以上は前ね」
たちが五百年も前に犯した罪により、牢へ閉じ込められていたことは三蔵から聞いている。しかし、三蔵も「何故」罰を受けたのか、理由を知らない。三仏神に尋ねても、答えは返らなかった。
本人たちも名前以外のことは覚えていない。自分たちが姉弟であることすら、忘れていたくらいだ。
「なあ、じゃあさ、三蔵にも誕生日ってあるんだよな?」
悟空がじっと三蔵を見る。
「どんな感じ?」
「どんな? 別にどうもねえよ」
短く返す三蔵に、悟空はむくれてみせる。
の方を振り向き、彼女にも問うた。
「どんな感じなの?」
「私も初めてなんだけど…。一般的には、毎年祝うものとされているわ。家族や友人、恋人なんかと一緒に過ごして、食事をしたりする。誕生日プレゼントを貰えたりするらしい。特に、赤子の時やとても長生きした時には、色々と宗教や土地の風習に応じた祝い方がされるんですって」
「プレゼント!?」
「そう、この花束のように」
「俺、食い物がいいッ!」
悟空は期待を寄せて顔を輝かせた。
「私に言わないで」
は視線を三蔵へ向けた。三蔵は見て見ぬふりだ。
「さんぞー!」
「別にこれといっていつもと変わんねえよ」
「何で!? 三蔵は祝ってくんねーの?」
三蔵は悟空の表情に、僅かな必死さを見て取る。
を見ると、彼女は興味なさそうにしていた。
三蔵の視線に気付いた
は言う。
「誕生日のありがたみは感じないけれど、ご馳走があるなら嬉しい」
悟空の援護射撃だ。
も沢山食べる方なので、食事の量や質が上がるのは、正直に嬉しい。
「貴男なら、バースデーケーキって知っているでしょう?」
「ああ、知っている。だが、用意してねえぞ」
そっけない三蔵の言葉に、悟空はめげずに食いついた。
「ケーキ!? じゃ、今から! 今から買いに行こうっ!」
「買わねえよ」
「えぇえ〜〜〜!」
悟空の残念そうな声が部屋に響いた。
「…三蔵、私もバースデーケーキというもの、食べてみたい」
「普通のケーキと変わりゃしねえよ。どういう訳か、お偉いさんの観世音菩薩が祝ってくれたんだ。それだけでいいだろう」
三蔵は不機嫌な顔して、恨めしそうに見てくる悟空を睨んだ。
「いわって…」
「悟空」
ぽつりと呟く悟空に、
が呼び掛ける。
「お誕生日、おめでとう」
「………ありがと」
にへっと笑った悟空は、
の手を取って言った。
「
も、おめでとう!」
「ありがとう」
悟空が笑顔になるなら、
は何でも良かった。例え、本当の誕生日かどうか疑わしい状況でも。彼の喜びや幸せに繋がるのなら、それで良い。
二人揃って三蔵へと方向転換する。
『三蔵…』
ハモって何か言いたげな姉弟に三蔵は眉間に皺を寄せた。
「言わねえよ」
三人の悶着が続く中、下界の様子を見ていた観音は。
「……おい、二郎神」
「はい…」
「お前、今からケーキ買って
たちンとこ持って行け」
花束を贈った手前、ケーキを持って観音が行くのは何だか間抜けな気がした。サプライズ、という観点からは良い案かも知れないが。
観音は財布を二郎神に押しつけ、来年はケーキも忘れないようにしようと心に決めたのだった。
**二郎さん、早くしないと押し切られた三蔵がケーキ買ってくれちゃうカモ知れないですよ…!(笑)
*2010/04/13up …また誕生日過ぎてからアンタって子は!